父が残したもの

父は言葉で多くを語る人ではなかった。

何かを受け継ぐとすればその生き方だろうか。

父は母とは48年間連れ添った。短くはない時間だ。

結婚3年の自分と比べれば大ベテランと言える。3年で結婚生活にうんざりしてる自分からすれば、途方もないことだ。

長く続いた秘訣は何だろう、と改めて考えてみる。思いつくのは、父の『解決しようとしない生き方』だ。

父は天才でもないし、聖人君子でもない。至って普通で、凡庸とさえ言えるかもしれない。

それでも、48年間夫婦関係を維持し、家族が維持されていたというのは、子供からするとやはりそうでない場合より嬉しいことだったなと思う。

父は、ものすごく優しいとか、ものすごく忍耐強いとか、ものすごく人当たりがいいとか、そういう何か特別な性質はない。

どちらかと言えば説得力がなく詰めが甘い感じがする人物だと思う。

でも父は、何かを解決しようとして相手を追い詰める、ということもしなかった。

それは、優しさでもあり、忍耐強さでもあり、凡庸さでもあった、と思う。

でも、だからこそ48年間も続いた。

追い詰められない。そうであれば相手は生きていける。

追い詰めない。問題を解決もしない。でも見捨てるわけでもない。ぼんやりと続いていく。

それはそれでありだと思えた。

父が死んで、自分はそのことに思い至った。

父が我が家の夫婦の現状を把握していたとは思わない。でも何か計り知れないめぐり合わせで、父が身をもってそれを俺に思い至らせてくれたのかもしれない。

それは父の死に少しでも意味を持たせたい自分のこじつけなのだろうと思う。

それでも、父の死を通して発見した父の生きざま、それを受け継ぐのも悪くない。そう思っている。

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